梨の実通信


五十嵐きよみの短歌ブログ。 ぼちぼちいってみたいと思います
by noma-iga
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ

カテゴリ:短歌作品( 14 )

スタンド・バイ・ミー


樹のうえの隠れ家、煙草、仲間たち、はじめて死体を見た夏休み

メイン州キャッスル・ロック僕たちは乾いた夏をひたすら泳ぐ

気の利いたののしり文句いちはやく覚えて高くコインを投げて

いかさまのカードが得意なあいつさえ本塁までは必死に駆けた

手から手へ回されるうちすりきれたペーパーバックの探偵小説

狡猾な店主とわたりあってのち英雄気分はざらりと苦い

人生を悟った顔で話しても僕らは伸び放題の夏草

一生を<弟>のままいるという不運のまっただなかの十二は

容赦なく午後のひざしは照りつけて慈雨として聴くラジオのポップス

人がみないつか死体になることの眩暈のあとに仰ぐ夏空

More
[PR]
by noma-iga | 2006-09-20 21:57 | 短歌作品

書物は踊る


読みさしのダフネ・デュ・モーリア若おばが白いレースの手袋はさむ

美しき従姉と頬を寄せ合って書斎にこっそり読む「はつ恋」を

気難し屋の祖母が午睡につくまでを読書係が読むプルースト

鍔(つば)ひろき母の帽子のその下にコクトー詩集隠されている

密林を探検することいまだなき父の愛せし「ジャングルブック」

書棚からジョルジュ・サンドを抜き出せばすきまに傾くピアノ教本

少年の名は聞けぬまま少年の犬をわたしもホームズと呼ぶ

うわばみをのんだ象の絵いく枚も絵日記に描くいもうとの夏

娘しかいない家族に遺されて古びぬ祖父の「マテオ・ファルコネ」

家族みな眠りにつけばいくつもの家族を抱いて書物は踊る

More
[PR]
by noma-iga | 2006-09-20 00:05 | 短歌作品

キョーコのいない八月


さえざえと一行の詩は青 どこか遠くの海で氷河崩れる

チェンバロの音を聴きながら透けてゆく耳すこしずつ風に近づく

髪と髪からませ少女ふたりいるマングローブが見ている夢に

サバンナのキリンのようにいち早く風うけとめるキョーコのうなじ

青空をのみこんだ午後サイダーにむせて笑えば光がまぶしい

制服のボータイ投げ捨て夏がくる白ブラウスでもう風になる

キョーコにはキョーコの掟ある夏に「かもめ」を選ぶジュークボックス

風立てば水に映ったわたしたち歪んでどんなことでもできそう

サドルから腰を浮かして走るとき常よりまぶしい日に焼けた脚

アリババを救う女の知恵あれば妻より別のものになりたい

プールから塩素のにおいを連れてきてテラスの椅子に彼女が憩う

オキシドールに脱色された金色の産毛の素足 夏の植物

日暮れには沓脱ぎの石冷えているキョーコをまねて裸足で立っても

お勝手に母が灯ともしこの家に私はただの長女に戻る

少女の名ノートに並べてみるゆうべフランシーヌにはなれないキョーコ

<蝿の目で見た風景>をもう一度見たくて探す理科の教科書

パイナップルの「ル」で終わるまで歩道橋を昇っては降りる私がいたこと

からっぽの私が干されているような物干し竿のブラウス憎む

対になる言葉を探す カイの目に氷のかけら、私にキョーコ

異なった時空の夏に足の爪キョーコが赤く染めている頃

水面に交尾の影を映しつつ飛べる羽根いま背(せな)に持ちたし

汗にまみれ誰かとからだを合わせいる夢にいつしかキョーコとなって

ネガフィルムに反転された古い古い記憶のようなキョーコの笑顔

More
[PR]
by noma-iga | 2006-09-20 00:01 | 短歌作品

メコンの泥水


マルグリット・デュラスを読めば魂は浮遊し仏領インドシナへと

    *

メコンゆく渡し船にておもうとき呪文のような国の名<ふらんす>

白ばかり絵の具のチューブ減ってゆき夏の光にただまみれている

十字架の下から汗ばみ始めゆくふたつの乳房のあいだの肌は

精神がほしがるものに肉体が追いつきたちまち追い越してゆく

ゆっくりと剥ぎとられゆく魂の皮膜よりまだ薄いレースを

たぶんあの男の舌が届かない喉の奥だけ十五歳のまま

<鳥たちの平野>と呼ばれるその土地の水の河口の海のまぶしさ

海(ラ・メール)と舌に薄荷の涼しさを転がすようにつぶやいてみる

爪先で歩いてみるには老いすぎて果てなく続くとおもう十代

透明になるまでわずか遠巻きの視線もやがて素通りしゆく

ひとりなら何をおもうもたやすくて雨天体操場の片隅

脱ぐための夏服、白い靴下が干されて安息日の午後長し

娼婦にはなれないだろう満たされることわがままに覚えたからだは

夏服の足もとより伸び影法師いつか入り日の海まで届け

重ならぬ未来それより未来すら想いもせずに抱き合う小部屋

ときどきは双子のようだ別々の理由で互いを恋しがるとき

サイゴンの雨後の泥土をまっしろな靴下のまま歩き続けた

ひとつでは渇きは癒えずつぎつぎと食みゆく茘枝(レイシ)の真白き果肉

水だった十五の私は滔滔とメコンを流れる泥水だった

More
[PR]
by noma-iga | 2006-09-19 23:59 | 短歌作品


ライフログ
最新のトラックバック
083拝(帯一 鐘信)
from ダイコン短歌野郎 ~とりあえ..
ドミンゴ
from 自動車-情報局
題詠マラソン2005(7..
from 気まぐれ徒然かすみ草
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧