梨の実通信


五十嵐きよみの短歌ブログ。 ぼちぼちいってみたいと思います
by noma-iga
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ

イカロスの空


          (1)イカロスの空--199*年

001:空 イカロスという名をつけた飼い鳥を空に放てばすべてはけむり

002:安心 逃げやすいものを逃がして欠けやすいものを壊して安心できた

003:運 七月の記憶の青さオルガンが運び出されたあとの空虚さ

004:ぬくもり さっきまで西日がさしていた床のぬくもりに積む洗濯物を

005:名前 所在ない週末のため買ってきた『宙(ソラ)ノ名前』を今夜もひらく

006:土 夜半から雨は土砂降り思い出が流されてくる予感に満ちて

007:数学 ほしいのは数学的な解じゃないツァラトゥストラと明日話したい

008:姫 叔父よ、かつて夏の寵姫として咲いたダリアを今も愛していますか

009:圏外 大気圏外に出てゆく宇宙船イカロス1号その後のこと

010:チーズ 倦怠をきどっていた日々「チーズ」とは無縁の写真ばかりが残る

011:犬 じっとりと犬の体温めいていた雨季の終わりに出会ったふたり

012:裸足 ぬかるみを裸足であるく感触に人ひとり知ることをはじめた

013:彩 泥だらけのピース集めて組み立てる迷彩色の夏のおもいで

          (2)天国にいちばん近い街--198*年
                 
014:オルゴール オルゴールがふいに鳴り出す火曜日の燃えないゴミの山のどこかで

015:蜜柑 不器用な指にあらわにされる夏蜜柑の中のちいさな太陽

016:乱 乱丁の詩集のような生き方はこわくてきれい 森茉莉を読む

017:免許 缶ビール分け合いながら仰ぐ空(いつかセスナの免許を取ろう)

018:ロビー おたがいのTシャツの汗が乾くまでロビーのソファで解きゆくパズル

019:沸 ゆるゆると茎をのぼってゆく水が沸点こえて咲くひまわりか

020:遊 ひとつまたひとつ空豆ならべては原稿用紙の桝目で遊ぶ

021:胃 けだるさが抜けきらなくて胃の中にハーブが育つサプリメントを

022:上野 上野から朝倉彫塑館までをちいさき影を引き連れてゆく

023:望 ちょうどよい近寄りがたさ恋人が望遠レンズを取り付ける手は

024:ミニ ミニチュアの東京タワーに火を放て街が夕陽に倦むそのまえに

025:怪談 怪談が都市伝説となる首都の80年代かくも明るし

026:芝 パラシュートひらく刹那に球場の人工芝のみどり鮮やか

027:天国 天国にいちばん近いビルがあり後追い自殺のニュースは絶えず

          (3)からっぽの薬莢
                             
028:着 被写体になるため何度も着地する夏ひざかりの鉄棒の下

029:太鼓 てのひらがこんなに熱いヤギ皮の太鼓を夜通し叩いたように

030:捨て台詞 出来の違う双子みたいだ 捨て台詞(兄)、負け犬の遠吠え(弟)

031:肌 金属が肌に合わずに二日だけ嵌めた指輪を小箱にしまう

032:薬 (薬莢が散らばっている)からっぽのフィルムケースがいくつも床に

033:半 半分はひかりに透けた輪郭で飛ぼうとしている写真のわたし

034:ゴンドラ 身の内の水路を今夜ゆれながらあやうく進むゴンドラがある

035:二重 いちどだけ二重の虹をみたという夏の少年くるぶし美(は)しき

036:流 下流へと彼の走らす自転車は風にぎるぎる鳴ったのでしょう

037:愛嬌  愛嬌のある犬だったと語られる家族の話の延長として

038:連 連写するシャッターの音(あおぞらを撃つ音)街は硝煙くさい

039:モザイク 公園につづく路上に埋められたモザイクの樹をたどって歩く

040:ねずみ イカロスという鳥、アルジャーノンというねずみ どちらがさみしい名前

041:血 蛍やら泡立草と血縁があればとおもう今日の気弱さ

042:映画 「ゴダールの映画のような結末」といわれてひかりの迷宮のなか

          (4)褪せてゆく文字

043:濃 うたた寝のあとにも夏がつづく午後カルピスはもう濃くなくていい

044:ダンス 軽やかに飛ぶ二羽となれイサドラが空に放ったダンスシューズは

045:家元 迷いなく枝を断ちきる家元の鋏さばきの音のすずしさ

046:練 どの風もまだ追い越せぬランナーが紐きつく締め練習をする

047:機械 ダ・ヴィンチの機械の素描うつくしく五〇〇年後の空なお高し

048:熱 紛らせてしまう ラジオの熱っぽい実況に気を取られたふりで

049:潮騒 ぼんやりと聞く潮騒が球場の歓声だったとようやく気づく

050:おんな 無防備なおんなのように頼りなく裸にされた無花果ひとつ

051:痛 そこらじゅう光まみれの八月に聴くシャンソンは痛々しくて

052:部屋 十匹の魚がはねる音(キーを打つ音)部屋はもう水びたし

053:墨 眉墨でおおきく×をつけてゆく切実でない言葉の上に

054:リスク 約束を回避しながらこの夏が過ぎる リスクを負わせたくない

055:日記 少女らの交換日記はや褪せてセピアトーンの夕焼けの痕

056:磨 どうしてもたどり着けないひとことがありいつまでもシンクを磨く

057:表情 表情をうっすら映し出しているワープロ画面は深い沼いろ

          (5)黄ばんだブラウス

058:八 叔父のため映画の本を買う八重洲ブックセンター五階売り場で

059:矛盾 なつかしい、懐かしがりたくない いつも帰省するとき矛盾に満ちる

060:とかげ 誰もかもとかげによく似た影をもつ町です百日紅がきれいです

061:高台 転校生ふたたび転校してからは行くこともない高台への道

062:胸元 胸元にビーズ散らしたブラウスも黄ばんで昔話がふえる

063:雷 雷は桑の畑にイカロスは大海原に落ちて--暗転

064:イニシャル かつて叔父の愛したダリア、BB(ベベ)というイニシャル 夏は甘美な昏さ

065:水色 後悔は洗い忘れたパレットの水色絵の具の手ざわりがする

066:鋼 ぎんいろの薄い鋼をさしいれて埋まる隙間がある(埋めますか)

067:ビデオ 飽きるまでビデオを再生して過ごす休暇 なんにも解決しない

068:傘 六月に失くした傘の水玉が降りだすだろう秋の街には

069:奴隷 ガレー船の奴隷頭が槌を打つ重さに時が刻まれてゆく

070:にせもの くりかえしフランス映画を観たあとのにせものめいた現実のなか

          (6)イラクサ科イラクサ

071:追 何本も快速電車に追い越され夏の終わりに向かって走る

072:海老 海老になってしまったふたりどうやって真正面から抱き合えばいい

073:廊 恋人がひとりで出かけてゆく街は空だけ飾る画廊のようだ

074:キリン この朝のどこかでキリンが水を飲む気配のうちに秋は近づく

075:あさがお フィルムケースに入れてやがては忘れ去るあさがおの種みたいにきっと

076:降 グライダー降りてくるのにふさわしい日だまりに靴をならべてみても

077:坩堝 耐性に欠ける坩堝のようだった夏、ひび割れた感情、その他

078:洋 汗を吸った衣類をかごに積み込んで白洋舎まで自転車で行く

079:整形 幸運はたやすく不運に変わりゆくノーマ・ジーンの整形ののち

080:縫い目 指先をほつれた縫い目にさしいれてもう裂くだけのこと 外は雨

081:イラク イラクサは風に仲立ちされて咲く花と知ってもひとりとひとり

082:軟 軟らかな土に残した足跡が化石になるころ会う約束を

083:皮 一生を脱皮できない生き物のさみしい背中(見送るための)

084:抱き枕 べつべつの風をこころのなかに抱き枕をならべていました、ふたり

085:再会 イカロスと再会することなき空の広さの下に季節はめぐる

          (7)天界の警句--199*年
                         
086:チョーク あけがたの教室に来て少年がチョークで綴るこの世との不和

087:混沌 長雨があがるのを待つ週末に豆のスープは混沌として

088:句 天界の警句つたえる文字をなし飛ぶ鳥たちの群れかもしれず

089:歩 なんとなく話し足りない日の暮れは歩道橋にて風と落ち合う

090:木琴 木琴を踏みしめてきたつめたさの誰トモ重ネ合ワナイ素足

091:埋 捨てられたサンダルはもうべつべつに草に埋もれて、水に沈んで

092:家族 本棚の本を家族として今日はウィリアム・サローヤンと親しい

093:列 一列にならぶ鉄塔また夏がめぐりきて背の伸びゆくような

094:遠 思い出すすべての夏の道の果て入道雲は近くて遠い

095:油 水たまりに滲む油の虹色を「汚い虹」と呼び踏みつけた

096:類 水平線日がな一日ながめても海にも空にも分類できず

097:曖昧 どのように生きたい私だったのか曖昧になる眉の輪郭

098:溺 いちめんのひかりの記憶 はてしないひかりの記憶 溺レテシマウ

099:絶唱 太陽にとどかず墜ちてきたひとり沈めてのちの海の絶唱

              *
100:ネット イカロスという名をネットに閉じ込めて100首の話をおしまいにする






題詠マラソン2004参加作品。各歌の前に記した「001~100」の題を詠み込んでいる。
[PR]
by noma-iga | 2006-09-29 22:30 | 短歌作品
<< 調子はずれのアリア ボーイソプラノ >>


ライフログ
最新のトラックバック
083拝(帯一 鐘信)
from ダイコン短歌野郎 ~とりあえ..
ドミンゴ
from 自動車-情報局
題詠マラソン2005(7..
from 気まぐれ徒然かすみ草
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧