梨の実通信


五十嵐きよみの短歌ブログ。 ぼちぼちいってみたいと思います
by noma-iga
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メコンの泥水


マルグリット・デュラスを読めば魂は浮遊し仏領インドシナへと

    *

メコンゆく渡し船にておもうとき呪文のような国の名<ふらんす>

白ばかり絵の具のチューブ減ってゆき夏の光にただまみれている

十字架の下から汗ばみ始めゆくふたつの乳房のあいだの肌は

精神がほしがるものに肉体が追いつきたちまち追い越してゆく

ゆっくりと剥ぎとられゆく魂の皮膜よりまだ薄いレースを

たぶんあの男の舌が届かない喉の奥だけ十五歳のまま

<鳥たちの平野>と呼ばれるその土地の水の河口の海のまぶしさ

海(ラ・メール)と舌に薄荷の涼しさを転がすようにつぶやいてみる

爪先で歩いてみるには老いすぎて果てなく続くとおもう十代

透明になるまでわずか遠巻きの視線もやがて素通りしゆく

ひとりなら何をおもうもたやすくて雨天体操場の片隅

脱ぐための夏服、白い靴下が干されて安息日の午後長し

娼婦にはなれないだろう満たされることわがままに覚えたからだは

夏服の足もとより伸び影法師いつか入り日の海まで届け

重ならぬ未来それより未来すら想いもせずに抱き合う小部屋

ときどきは双子のようだ別々の理由で互いを恋しがるとき

サイゴンの雨後の泥土をまっしろな靴下のまま歩き続けた

ひとつでは渇きは癒えずつぎつぎと食みゆく茘枝(レイシ)の真白き果肉

水だった十五の私は滔滔とメコンを流れる泥水だった




2001年夏ごろ、第2歌集『港のヨーコを探していない』を刊行して間もないころの作。
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by noma-iga | 2006-09-19 23:59 | 短歌作品
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